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外国法人に支払うソフトウェア開発費にかかる源泉所得税

休日の最後の夜に、外国人の友人から税金の相談をされた。彼は外国でソフトウェアを開発する会社を経営している。彼の相談は以下のとおりだ。

日本の会社から、ソフトウェアを開発する代わりにお金を受け取ることになっている。

日本では著作権の譲渡の対価から所得税源泉徴収する必要があり、「ソフトウェアの開発費」は「著作権の譲渡の対価」にあたるので20.42%の源泉所得税を差し引いて支払うと言われたが、これは本当か。 

調べてみると、同様のケースで源泉徴収が必要だという人と必要ではないという人がいるようだ。

私は税理士でも会計士でも無いのだが、彼よりは日本に詳しいと思うので代わりに調査をした。

 

源泉徴収の対象になるか

国税庁の運営するWebサイト「タックスアンサー」によると、外国法人の場合は日本で獲得した「国内源泉所得」のみが源泉所得税の課税対象になる。

No.2878 国内源泉所得の範囲|源泉所得税|国税庁

居住者については、原則として、日本国内はもちろん国外において稼得した所得も課税対象とされますが、非居住者及び外国法人については、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされます。
 「国内源泉所得」には次のようなものがあります。

・・・

(中略)

・・・

(9) 国内で業務を行う者から受ける工業所有権等の使用料、又はその譲渡の対価、著作権の使用料又はその譲渡の対価、機械装置等の使用料で国内業務に係るもの

・・・

(後略)

上記の「国内源泉所得」は所得税法の第161条にも列挙されている。どうやら、著作権の使用料や譲渡の対価は源泉徴収の対象になるようだ。「著作権の使用料又はその譲渡の対価」以外にソフトウェア開発が該当しそうな項目は無いため、ソフトウェア開発業務がそれに該当するかを検討する必要がある。

著作権の範囲に該当するか

著作権の定義については著作権法を参照することにした。

(著作物の例示)
第十条  この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一  小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物

・・・
(中略)

・・・
九  プログラムの著作物

・・・
(中略)

・・・

3  第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。
一  プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。
二  規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。
三  解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。

ここで、プログラムは「著作物」と言われているが、プログラム言語、規約及び解法は「著作物」にあたらない、と書かれている。

著作権法で保護されるのは表現それ自体であって、表現の手段及び表現の背後にあるアイデアは保護されない、というのが鉄則だ。

私は以前ゲーム会社で働いていたことがあるが、当時GREEDeNA著作権侵害で訴えた裁判があり、動向を注視していた。DeNAの「釣りゲータウン2」(開発会社はORSO)がGREEの「釣り★スタ」という釣りゲームをパクったかどうかが問題になった事件だ(画面を見れば模倣したことは一目瞭然だが、それでも著作権法上どこまで許されるのかは気になった。だいたい、他社の製品を全く参考にしない等あり得ない)。

裁判の要旨はこちらのサイトにまとめられている。

www.atmarkit.co.jp

重要な点は、翻案に関する箇所だ。

表現に表れない「アイデア」が共通していたり、創作的でない部分が共通していたとしても、それは「翻案」ではない=著作権侵害にならない

ちなみにこの裁判は、一審ではGREE側の主張が認められたものの、二審では逆転し訴えを退ける判決が下された。その後、最高裁で棄却され二審判決が確定した。二審の知財高裁判決のPDFはこちら

 

ここで、彼の会社が具体的にどのような業務をするのか聞く必要が出てきた。もし彼の会社が実装の方法や単なる労働力を提供するに過ぎないのであれば、それは著作権にはあたらないと言えるからだ。

具体的な業務内容

彼に具体的な業務内容を質問したところ、顧客が決定した仕様に沿ってプログラミングを行うというものだった。画面の遷移、データベースの構造、アプリケーションのロジック等については顧客が決め、彼の会社で実装を行うとのことだ(こういうタイプの取引で実装を完全に丸投げされることは、実際には少ないと思う。なぜなら、サービスの運営や継続的な機能追加にあたっては社内に実装を把握している技術者が必要不可欠であり、実装を把握する手段として最も有効なのは開発に最初から携わることだからだ)。 

結論

顧客の決定した仕様をいかに実現するかはアイデアに過ぎず、著作物ではないと考えられる。よって顧客が支払う開発費も、著作物への対価ではなく所得税法上の源泉徴収義務はないため、顧客が源泉所得税を支払う必要は無い。

補足

私は税の専門家ではないので、発言に責任は持ちません。詳しくはお近くの税理士に相談してください。 

なお、源泉所得税を支払う場合であっても日本と租税条約を締結している国であれば、二重課税防止のため外国税額控除が受けられるはずです。

国税額控除の適用を受けるためには源泉所得税を徴収している旨の証明書を納税地の税務署に提出する必要があります。

No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)|源泉所得税|国税庁